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PROJECT STORY 1CELL 0 & Test in the Loop™
自動車産業における「潮目の変化」をチャンスに
次世代自動車技術に挑むHORIBAの新ビジネス
下野 友也

堀場製作所
グローバル本部 自動車グローバル戦略室

下野 友也

Tomoya Kabata

政所 重人

堀場製作所
営業本部 大阪セールスオフィス

政所 重人

Shigeto Mandokoro

岸 博香

堀場製作所
開発本部 第1製品開発センター
自動車アプリケーション開発部

岸 博香

Hiroka Kishi

山下 翼

堀場製作所
開発本部 第1製品開発センター
自動車アプリケーション開発部

山下 翼

Tsubasa Yamashita

Prologue時代の変化を読み、成長を続けてきたHORIBA

 1960年代、アメリカに端を発して、自動車排ガス規制の強化が進んだ。安全で健康な暮らしを守るこの動きは世界各国へと広がり、同時に有害物質の排出量を正確に測ることのできる装置へのニーズも高まっていた。
 その期待に応えたのが、1964年に誕生したHORIBAのエンジン排ガス測定装置「MEXA」だ。医学用呼気ガス分析計の技術を排ガス測定に活かした画期的な新製品の登場は、自動車業界を驚かせ、やがて世界シェア80%を占める主力製品に成長。「排ガス測定のHORIBA」としてのポジションを不動のものとした。
 その後、時代とともに厳しくなる排ガス規制にも、さらなる技術力の研鑽と効果的なM&Aを推し進めながら柔軟に適応し、事業規模を拡大していく。さらに2005年には、買収により自動車計測機器ビジネスを獲得。エンジン開発やブレーキ・風洞試験など、自動車開発全般に対応する総合的な分析・計測機器メーカーへと変革していった。
 排ガス規制の始まりから半世紀が過ぎたいま、自動車産業に「電動化」という新たな潮流が生まれている。もちろん、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も含め、内燃機関は今後も主要動力源であり続ける。一方で電気自動車や燃料電池車に対する開発投資も近年大きく加速し、自動車開発は多様化の道をたどっている。
 電動化は危機をもたらすのか、もしくはチャンスに変えるのか。次なる成長に向け、HORIBAは積極的な打ち手をとる。2015年、電動車両を含めた自動車開発全般のエンジニアリングサービスを提供するMIRA社(イギリス)がM&AによりHORIBAグループに加わった。さらに2018年には、バッテリーや燃料電池の評価装置を開発・製造するFuelCon社(ドイツ)も加わった。両社の技術とノウハウを融合することで自動車産業に新たな価値を提供し、存在感を発揮しつつある。そしてさらに上のステージへと向けて――2018年、「CELL 0」プロジェクトが始動した。
※当社調べ(2018年12月時点)

Scene01バッテリー・燃料電池の評価試験室「CELL 0」誕生へ

 日本一の湖を眼下に望む、びわこ工場「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」。2016年に誕生した自動車計測事業を主とする研究開発・生産拠点で、グローバル戦略を担う下野友也はおもいを巡らせていた。
 「自動車業界の技術トレンドは大きく変化している。電動化時代に向けて、これからのHORIBAに何ができるのだろう?」
E-HARBORには、ドイツやイギリス、アメリカなどHORIBAグループ世界6か国、9か所の自動車開発試験設備を統括する最新の実験棟であり、お客様に「来て、見て、体感」していただくことのできるショールームとしての役割も果たす「E-LAB」がある。そこにはパワートレイン試験用のCELL 1、エンジン試験用のCELL 2、完成車両の実機テストが可能なCELL 3と、3つの評価・試験設備が揃っている。「これだけの充実した設備と、MIRA社が持つバッテリー開発試験の知見とノウハウ。この技術力を融合することで、電動化領域で新たな事業の柱を創り出せるはずだ」
 そして、描いた夢を実現するための挑戦が2018年に始動する。電動車両用のバッテリー・燃料電池の評価試験室「CELL 0」を立ち上げるプロジェクトだ。その責任者の一人に選ばれたのは、自らのおもいを上司や同僚に熱く語り続けていた、下野だった。
 自動車産業のお客様は当然ながら、高度な評価・試験設備を持っているものの、エンジンやバッテリー、車両、モーターなどの試験棟は別々に運用されていることが多い。一方で、E-LABの3つのCELLは隣り合ったレイアウトで連動しやすく、試作段階から実機でのトータルシミュレーションの性能検証まで、開発プロセスを大幅に効率化できるメリットがある。既存のCELL 1・2・3にCELL 0を連携させ、電動化開発における様々なコンポーネントの組み合わせを最適化する。そんなHORIBA独自のトータル評価システム「Test in the Loop™」の確立も、同時にめざしていた。
 大型投資案件となるこのプロジェクトには、入社間もない開発エンジニアである、岸博香と山下翼の姿もあった。「いきなり、私がそこに携われるの?と驚きました」(岸)、「大変な仕事だけど、このチャンスをものにしたいという思いがありました」(山下)。大役を任される喜びと、自分にできるかという不安。おもいが交錯する新入社員の2人を見守るリーダーの下野には、一つの確信があった。
 「新しいことを始めるには、これまでにない考え方や発想をオープンに取り入れていく必要がある。2人には、大きな期待を寄せて参加してもらったんですよ」
※Test in the Loopは 株式会社堀場製作所の商標です。

Scene02ゼロからのスタート、互いに「寄り添う」スタンスで挑戦

 プロジェクトメンバーとの議論を重ねながら、日々忙しく過ごす下野に朗報が届いたのは、その年の秋だった。バッテリー・燃料電池の評価装置の開発・製造において、欧州で高い実績を誇るFuelCon社(ドイツ)が買収によりグループに加わったことだ。
 「FuelCon社の評価試験装置をCELL 0に導入することが決まったその瞬間が、本当の意味でのスタートでした。ここからおよそ1年という限られた時間で立ち上げていくわけですから」と下野は振り返る。思案の末に導き出したのは「寄り添う」スタンスだ。それはMIRA社やFuelCon社のノウハウ・装置を日本のお客様に認めていただき、一緒に課題や挑戦の解決策を導き出していくためであり、また、両社の技術の深さや知見、こだわりを学ぶためでもあった。
 だがFuelCon社との連携は当初、日本と欧州で製品における使いやすさの概念が違うなど、ぶつかり合うことも少なくなかった。「侃々諤々。そんな表現がぴったりでした。それでも、ゴールイメージを共有できるよう互いに発信し続け、気になることはどんな点でも相談し合いました」時差を考慮した夜間のWebミーティングから、日本とドイツのメンバーが互いに出張して訪問を重ねるなかで、個性を理解し合いながら共通の認識が芽生え、一体感も高まっていった。異なる思想の融合に苦労しながらも、乗り越えていくおもしろさや手応えを実感し、新たな知見を確立していく。そんなHORIBAらしいグローバルな仕事の醍醐味を、下野は味わっていた。
 新たな技術の吸収には、岸と山下も下野の期待を越える力を発揮していた。岸はバッテリー、山下は燃料電池の評価試験を担当し、FuelCon社のエンジニアとWebを通じた遠隔操作による共同試験を実施し、結果データの共有・分析も繰り返した。「絵を描いたり、ジェスチャーで表現したり。英語で流暢に対話できなくても、何とかわかり合おうとして、技術者同士って共感し合えるんだと身をもって知りました」そう口を揃えて語る2人は日々、互いの成長も感じていた。
バッテリーと燃料電池、それぞれの評価試験室のレイアウトから設備デザイン、安全性まで。プロジェクトメンバーが自ら考え、つくり上げたCELL 0の本稼働を控えた頃、FuelCon社のトップが視察する機会が訪れた。
 「装置を知り尽くしたトップが実際に見て『きれいで、凄く工夫されている。いいラボだ!』と認めてくれました。みんなでつくり上げてきたものが評価されたことが嬉しかったし、大きな自信になりました」(下野)

Scene03「パートナー」としての地位確立に向けて

 「HORIBA、新試験室を稼働」「幅広い計測を提供、電池解析に注力」――。2019年11月、CELL 0とTest in the Loop™本稼働のニュースが新聞各紙の見出しを飾った。先だって、経営陣参加の社内発表会が実施され、労をねぎらわれるとともに激励を受けた。高まる期待に応えるかたちで、下野もさらなる挑戦への決意を表明した。
 「CELL 0の始動は、新たなビジネスのスタートラインに立つということ。バッテリーや燃料電池評価装置の販売だけでなく、様々な計測ニーズに応えるアプリケーションの開発、そして電動車両開発そのものの効率化に至るまで、貢献できる自信があります」。堂々と宣言するリーダーの姿に、発表会の案内役を務めた岸と山下も、達成感を噛みしめていた。
 本稼働とともに、自ら手を挙げてFuelCon社の評価装置の営業担当になったのが、政所重人だ。自動車産業に多角的に貢献してきたHORIBAに必要だった「電動化」のピースが埋まるだけでなく、「しっかりと、次代を見据えて動いていますね」とお客様から高評価を得ることが出来た。
 「電動化ビジネスの拡大に留まらず、CELL 0を通してエネファームの本格的な普及など、⽔素社会の到来に向けたアプローチも進めていきます。その突破⼝として、⾃動⾞産業からお役⽴ちのシーンを増やしていくことが狙いです。お客様を一番に考え、寄り添うことを信条に、⽇々の活動にあたっていきます」
 下野もまた、次世代のエネルギー社会に貢献するHORIBA独自の価値づくりへ、お客様との接点を増やし、より多面的な解析・計測ソリューションを果たす姿を描き出している。
 「自動車産業から頼りにされる、総合的なパートナーへ。今回のプロジェクトは完了しても、携わったメンバーがこれからも、その先頭に立ち続けてくれたら嬉しいですね」

Epilogueおもしろおかしく、これからも挑戦を

 自動車計測事業の原点とも言える「MEXA」は、熱い志をもったエンジニアたちが密かに研究開発を続けて、つくり上げたものだ。自らの情熱やおもいをカタチにする。そんなHORIBAらしいユニークさや、社是「おもしろおかしく」は、失敗を恐れずに前向きに挑戦する原動力になっている。
 「自分の役割を果たし、プロジェクトに貢献できたと思える実感の積み重ねが、私のおもしろおかしくです」と語る岸。今は、経営会議やお客様が評価する資料になるCELL 0のデータを、自らの手でわかりやすく、さらに質を高めていくことが目標だ。「不安があっても、やってよかったと感動できることが、おもしろおかしくかな」と語るのは山下だ。何事も思い切って挑戦し、新たな感動を積み重ねていきたいと考えている。
 「自分の興味があることや、他社がやらないユニークなことにも挑戦させてもらえるから、仕事をおもしろおかしくしていけるのがHORIBA」と笑顔で語る政所。まずは、事業規模をよりグローバルに拡大するべく、FuelCon社との連携をさらに深めるとともに、現場の最前線に⽴ってリードし続けることが挑戦テーマだ。そして「ダイナミックな環境に身を置いて、自分が動くことで世界中のメンバーも巻き込んでいけること。それが私のおもしろおかしくです」と語る下野。自動車産業の変革の波にも、まず自分から動いて前へと進むことで、みんなで一体感を持って楽しみながら、新たなゴールに向かっていこうとしている。
 「排ガス測定のHORIBA」から「次世代自動車計測のHORIBA」へ――メンバーの挑戦はこれからも続いていく。